「今日はあっさりしたものが食べたいな」
という気持ちが突然ニュッと頭を出すことがある。自分の場合、大体は温かいうどんであったり、回転寿司で貝やイカ、タコなどネタに茶碗蒸しをあわせるパターンが多い。自宅であれば雑炊やお粥、柔麺なんかを作ったりする。脂が少なく柔らかで消化にいいこれらは自分の中で「あっさりオールスターズ」として昼夜を問わず活躍している。
そのオールスターズの中にやよい軒が2軍メンバーとして登録された。やよい軒が最近はじめた「おだし無料サービス」がそのきっかけである。
おだしの無料サービスは一部の店舗でテスト導入された後、9月17日から全国展開がスタートした。もともと定食を頼めばご飯のおかわり自由、漬物も無料で提供していたやよい軒。従来「漬物+熱い番茶」でしか楽しめなかったお茶漬けを、だしでも楽しめるようになるというこのサービス。自分にとっては「少ないおかずでとにかくお腹を満腹にしたい」というユーザー向けの印象を受けた。店舗のPOPにも「締めに」と書かれている。
しかし実際に店舗に足を運んで食べてみると、むしろ「あっさりご飯を食べたい人向けにいいんじゃないか」という方向に意識が変わり始めた。
やよい軒式提供システムのおさらい
やよい軒にあまり行かない方向けに、今回の施策…というよりもやよい軒のシステム自体をざっくりと説明しよう。
やよい軒はお弁当の「ほっともっと」を運営する株式会社プレナスが運営する定食チェーン。上述の通り「定食のご飯がおかわり自由」というのが大きな特徴で、濃いめの味付けで提供されるおかずと無料で提供される漬物とごはんを三つ巴で組み合わせることで空腹を十二分に満たすことができる。(余談ではあるがこの漬物、少し前まで大根がメインだと思っていたがプレナスは「刻みごま白菜漬け」と言っているので、大根メインではないようだ)
入店するとまず券売機でメニューを選択する。主菜を決めたらご飯を「白米」「もち麦ごはん」のいずれかを選択し、券が発券されたら席へ向かい、店員に券を渡す。水または温かいお茶はセルフサービスだ。
しばらく待つと注文した料理が提供される。漬物は通常テーブル上に「ご自由にどうぞ」形式で置かれていることが多いようだが、店舗によっては新型コロナウイルス対策で「お膳に一つ」としているところもあるようだ。
定食を食べ進む。多くのメニューがおかわりを想定しているようで、だいたいおかずが半分くらいになったところで最初のごはんがなくなる。おかわりをしたい場合は店内の「おかわり処」に出向き、機械式のご飯提供機「ごはんおかわりロボ」でおかわりを用意する。
ごはん、おかず、味噌汁、漬物の「四角食べ」を繰り返し、食べ終わったらお膳は店員が片付けるのでそのままにお店を出る。これでやよい軒における「ワンセット」だ。
おだしは初手から投入も可能
で、おだしである。
おだしは給水器やごはんおかわりロボの近くにポットに入った状態で供されていることが多いようだ。プッシュするポンプ式のもので、薄い花柄がプリントされ、中身が少なくなると虚しくシュゴーシュゴゴッフと音を立てるおばあちゃんちにあるあれだ。
このおだし、おかわりのときにしか使えないわけではない。開始早々覇王翔吼拳をぶっ放すリョウ・サカザキのようにお膳が来たと当時におだし投入に走る、ということも可能である。
このシステム、「あっさりしたい」に非常に有効だ。
あっさり食べたいときは柔らかいものを口が欲することが多いが、いきなりおだしでお茶漬けにできるのはメンタル的にも非常に効果が高い。食べ進んでいくに従って汁をすい、ごはんがどんどんふやけてヤワヤワになっていく様は視覚的にも有効打。「あっさり食べたい欲」がみるみる満たされていく。これはよい。
…のだが、自分の中ではやよい軒はまだ「あっさりオールスターズ」の正規メンバーとして活躍するにはまだ時期尚早と感じている。まだ2軍メンバーなのだ。
「おかず力」に偏りが見られるやよい軒
やよい軒には「ごはん単品」が用意されていない。わざわざ「よくあるご質問」の回答に用意するレベルなので、相当問い合わせがあるのだろう。となると、プレーンな白飯を手元に呼び込むための注文は必然的に定食となる。
そしてやよい軒の定食のラインナップがこの様になっている。(2020年10月現在の東京23区内メニュー)
茶色い。
豪鬼コマンドを失敗したときに出てくるリュウの道着よりも茶色い。
上述の通りやよい軒は空腹を満たすことに主眼をおいたメニュー作りをしていると思われる。そのため、味付けも濃い目でご飯がすすむメニューが中心だ。揚げ物、炒めものは「あっさりしている」とは言えない。焼き鮭の定食で鮭茶漬けにする、というのが一番「らしい」スタイルではあるが、その焼き鮭も結構脂がのっているのだ。
定食という枠で見てしまうと、一貫して「あっさりしつづける」という条件を満たすことが難しい。それが今のやよい軒である。極端に「ガッツリ」に寄せた定食の構成はおかず力(りょく)に偏りがあると言わざるを得ない。
やよい軒で「あっさり食べる」ためのメニュー思案
とはいえせっかくの「だし」という強力な援軍を得たやよい軒である。脂っこく、味の濃いメニューの中からでもなるべくあっさり路線を見つけていきたいと思う。
季節メニューの活用
やよい軒では季節限定のメニューが頻繁に投入される。
まず夏場の定番は「冷や汁」だ。2020年の夏には宮崎名物の「冷汁ととり天の定食」が提供された。夏場の暑さで食欲のない時期に提供されることもあり、揚げ物・焼き物がついているとはいえ比較的あっさりめのメニューになっている。
難点は「わざわざだしを使わなくても冷や汁をごはんにぶっかけて食べればいいんじゃないか」という話になりがちなところである。
また冬場には鍋メニューが提供される事が多い。
定番はすき焼きのようだが、こちらは味付けが濃い目になっているため「甘じょっぱい割り下がたっぷりしみたうどんを食べたい」などのときはいいのだが、あっさり行きたいときはいささか重めだ。どうしても他の鍋メニューに目をやることになる。
2020年の冬場は「しょうが鍋定食」が提供された。しょうがの効いたスープで豚肉や水菜を中心とした野菜が使われている鍋で、豚肉を使っている割には比較的あっさりしている。また、このしょうが鍋定食にとろろを加えた「とろろしょうが鍋定食」はとろろの支援攻撃を得ることでさらに優しいものになっている。
「鍋だったらおだし使わなくても鍋のつゆで雑炊っぽくすればいいじゃないか」という気がしないでもないが、見た目のあっさり感はかなり強め。ただ、個人的にこのメニューにメンチカツをつける、という首脳陣の判断には疑問が残る。
魚メニューの活用
季節メニューでいいものがない場合は、レギュラーメニューでなんとかする他ない。肉や野菜ものが「揚げ」「炒め」中心であることを考えると、必然的に選択肢は「魚」になってくる。
やよい軒自身がだし茶漬けとの組み合わせを推しているのは「サバの塩焼定食」と「銀鮭の塩焼定食」の2点だ。わざわざだし茶漬け用のサイドメニューとして揉み海苔とわさびを添えた上で「ミニサバ小鉢」「ほぐし鮭小鉢」と銘打った少量版を用意するくらいなので鉄板と言っても過言ではないだろう。
やよい軒の定食には小さな冷奴がつくものとつかないものがあるが、この2つは冷奴もついてくるので「豆腐をのせたごはんにだしをかける」という豆腐茶漬け、という方向にも行ける。
ただ、定食ベースだとわさびとのりがつかない。また、先にも書いたとおり肉類に比べればマシではあるが、塩サバも銀鮭もかなり脂が乗っているので、胃が相当やられているときはこれでも重く感じるかもしれない。
魚メニューの中だと大穴は鉄火丼だ。
やよい軒はカツ丼、親子丼、鉄火丼といった丼ものも提供している。その中でも鉄火丼は揉み海苔を敷いた御飯の上にマグロの切り身がたっぷりと載せられたもので、高タンパク低脂肪の品。丼ものなので「おかわりができない」という大きなデメリットは抱えているが、そのまま食べても比較的あっさりと食べられる。
ここに「だし」である。
流石に丼を直接だしのポットのところに持っていくのは気がひけるので、お茶用に用意されている湯呑にだしを入れ、最初の半分はそのまま、後半はだしをかけてだし茶漬けで、というひつまぶし方式で食べるというもの。やよい軒の鉄火丼は酢飯ではなく白米なのでできる芸当だ。(地域によっては変わる可能性あり)
あっさり食べるにはメニューの開発・見直しが必要
色々とあっさり食べるための方法を思案してきたが、やはり抜本的な解決方法としては「メニューの追加」が望ましいだろう。この場合は主菜を刺身やなめろうなどにして全体的な脂分を抑えてあっさり・さっぱりした定食を用意する、奄美大島の郷土料理として知られる「鶏飯(けいはん)」のような「だしをかけて食べることを前提としたセット」を開発する、などが考えられる。
また、百歩譲って主菜はレギュラーメニューにするとして、だしをかける前にごはんに乗せるものを拡充するという手もあるだろう。きゅうりや大根、梅干しといった漬物類であったり、わさびや海苔、三つ葉などの薬味類をサイドメニューに追加することで、だし茶漬けのパフォーマンスは飛躍的に伸びると考えられる。
「だしは無料のサービスなんだからそこまでしなくても」という意見もあるだろうが、チェーン店で気軽にだし茶漬けが食べられる店はあまり存在しない。他との差別化を図る意味でも、早急にメニューの開発が待たれるところだ。
…とここまで書いたところで「そんなにだし茶漬け食べたかったら丸亀製麺でごはん頼んでネギとおろしショウガ載せてかけうどんの出汁をかければいいのでは」ということに気がついたのだが、それはそれ、ということにしておきたい。
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