読中読後の「安心感」 ― 桜玉吉著「日々我人間」読了

マンガ
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「安心しました。」読んでる最中、何度もそう玉吉さんに言いたくなる本でした。

昨年「文春砲」という言葉とともに話題に上がることの多かった週刊文春。その週刊文春に桜玉吉の連載があることを私恥ずかしながら知りませんでした。本書は150回3年に渡って連載された作品をまとめたものです。

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桜玉吉作品を長年読んでた人にはお馴染みの「エッセイ漫画」

「漫喫漫玉日記深夜便」を読んだことのある方はご存知でしょうが、玉吉さんは東日本大震災の前あたりから漫画喫茶で創作活動するようになり、その後漫喫に「住む」ようになります。「深夜便」では漫喫生活しか掲載されていませんが、「日々我人間」ではその後伊豆の自宅に移り住み、伊豆の豊かな自然の中で巻き起こるドタバタを玉吉テイストで描いています。

伊豆の豊かな自然とは、主にムカデとシカとリスです。

内容自体は「漫玉日記」や「しあわせのかたち」から脈々と続く「エッセイ漫画」。編集担当の意向なのか週刊というペースに間に合わせるためなのか、ビーム連載時によく見られた「和紙に墨」な作品こそありませんが、いつものノリ、いつもの画風で描かれています。

「日々我人間」より

作中に「黒玉吉」の影は感じられない

全150回の作品の中で一番印象に残ったのは「父が亡くなった」という内容のものでした。漫玉日記でも度々登場する予科練上がりで公務員だった桜玉吉のお父様。突然の訃報をテーマとして取り上げ、きちんとオチまでつけて描き上げる漫画家桜玉吉の姿には過去の作品に登場した「黒玉吉」の黒い部分は見受けられないように思いました。

冒頭の「安心しました」という気持ちがここから来るのかもしれません。

気になったのはコマ外にコメント文章が結構多めに散りばめられていること。「色々言いたいことはあるんだけどさ」的な気持ちが出てしまっているのか、それともサイズの制約上コマの中に入れるのが難しいからなのか……内容はネガティブな印象ではないので、「今はこういう作風」と言われればそれまでなのかもしれません。

サクッと読めてどこででも止められる

エッセイ漫画ですから、何ページにも渡ったストーリーがあるわけでもなく、どこからでも読めてどこでも止められます。

なので夜寝る前にごろりと横になりながら眺めて、「フフフ」とニヤけるのが非常に心地いい……のですが、紙面の関係上「ゲイツちゃん」などと同じ横開きなので仰向けになって冊子を持つと非常に持ちづらく、疲れます。Kindle版もありますが、「横画面にすると見開き状態で表示される」ということでかなりイレギュラーな表示になってしまうようで、ここは残念なところ。

往年の玉吉テイストを味わいたい方におすすめ

玉吉さんを取り巻く状況はこの十年くらいで大きく変わりましたが、精神的に不安定だった頃に比べれば「深夜便」以降かなり落ち着いてきたように思います。個人的には「幽玄漫玉日記の頃の玉吉さんの角が取れた感じ」といった印象で、今年四十になる自分にとってはこれくらいの内容が実に心地よい。すっと入ってきてすっと抜ける。いや、抜けちゃいけないんですけど、そんな感じがするのです。

若い方、というよりは「子供の頃にしあわせのかたちを読んで、それから玉吉さんの本を読み続けてきた」という方におすすめしたい一冊です。

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